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テレワーク実施の覚書

2020年5月31日

テレワーク導入は不可欠な時代に

新型コロナウイルス感染症対策として、日本政府から緊急事態宣言が発令され、各企業は事業を継続するための方策の一つとして、テレワーク導入を急がざるを得ない状況にあります。

これは、正社員だけに限ったものでなく、派遣労働者や業務委託先の業務従事者においても同様の取り組みを加速させる必要がでてきています。

なぜなら、派遣労働者や業務委託先の業務従事者の支援は今や不可欠の世の中になっているからです。

しかしながら、なかなか円滑にテレワークに入れなかった企業も多いように報道等を通じて見聞きしているところです。

私自身も、日本経済の迅速な盛り返しを切望し期待している一人であることから、テレワーク導入が派遣元企業や業務委託先企業との間で円滑に調整が進むように契約面から下支えできたらいいなという思いから、下地として参考にしていただけるドラフト素材を提供したいと思います。

 

テレワーク導入を進めるうえでの課題について考える

先ほど、テレワーク導入に苦戦している企業があるというお話をしたところですが、何がテレワークの導入を阻害しているのでしょうか。

私が経験したことや報道等で見聞きしていることを整理すると次のようなものが挙げられるようです。

  1. 雇用契約・労働契約のいずれかを締結し直接雇用している社員以外の方(派遣社員・委託先従業員)へは派遣会社・委託先の会社との間で就業場所(作業場所)の追加・変更や通信費・電気代といった費用面などの諸々の調整とその合意が必要となる
  2. 自宅やテレワークを実施する場所に必要な作業環境を構築することが現実的に困難であったり、セキュリティ要件を緩和するなどのルール変更を伴う対応が必要となる
  3. 病院、店舗、工場などの、その場所でしか行うことができない業務である
  4. 業務に不可欠となる情報がオフィスでしか触れられない、または、特に重要な情報である場合に情報漏洩のリスクを解消することが難しいとして、業務特性からテレワークの実施が困難とされる業務である
  5. 労務管理上、オンとオフの境目が曖昧になる点を危惧し踏み切れない
  6. 店舗などの対面取引が不可欠な仕事であるため、テレワークに向かない職種である
  7. 会社の都合(デジタル化(DX:デジタルトランスメーション)が進んでいない、人事評価や人事管理が難しくなる、社員間の連携や協力関係が築きにくい、テレワークを進めるためのノートパソコンへの入れ替えやWeb会議などのツール導入などの環境整備に費用や工数が増え負担が増大する、など)によるもの

以上のようなものが挙げられるようです。

では、実際の私の体験や周囲の企業の対応などから一つ一つを掘り下げ考えてみたいと思います。

 

「直接雇用の社員」と「派遣社員、委託先の従業員」との対応の違い

今回の新型コロナウイルス感染症対策のために政府が緊急事態宣言を発動する事態にまで至り、急遽、私の職場でも事業継続(BCP=Business Continuity Plan)の観点からテレワークを実施することになりました。

経済活動(事業活動)を止めてしまうわけにはいきませんから、即座に在宅勤務の対応を進めました。社員については、比較的容易にテレワークに切り替えることができ、ことなく業務を継続することができました。

これは、もともと働き方改革の取り組みの流れの中で、月に1回は在宅勤務をしてみましょう、という取り組みを地道に続けてきていた成果といえるでしょう。おかげで比較的スムーズに在宅勤務・テレワークによる就業形態へシフトすることができました。情報セキュリティ面においても従来からの取り組みの中で、社内ネットワークに接続するための安全な環境があらかじめ整備し準備できていたことも大きかったのだと思います。

しかし、苦戦することとなったのが、今や事業を進めるうえで不可欠でありとても重要な役割を担ってくださる派遣社員や業務委託先の従業員の皆さま方でした。

なぜなら、派遣社員の場合は、派遣契約時にあらかじめ就業場所を取り決めることとなっており、労働者派遣個別契約書(以下、「派遣契約」といいます)にきちんと明記しておく必要があります。また、派遣先である当社の都合だけで、勝手に在宅勤務・テレワークによる就業形態で業務に従事するような指示をすることもできず、派遣会社(派遣元)と事前に協議し、派遣労働者の了解もきちんといただきながらこれらの変化点を整理し取り決めをしたうえで書面化しておいた方が後日のトラブル予防にもつながり安心といえます。

業務委託先の従業員についても、委託元であり発注者である当社との間に雇用関係があるわけではありませんし、ましてや指揮命令することもできませんから、業務委託先の企業と事前に協議をして諸々の取り決めをしておかなければならないわけです。

そこで、派遣会社(派遣元会社)や委託先の会社とテレワークを実施することについての協議を急ぎました。

取り決める必要があること、あらかじめ考えておかなければならないこと、として以下のようなものがありました。

 

1.就業場所・作業場所の変更

派遣労働者(派遣社員)の場合

就業場所・作業場所は、通常、受け入れ企業(派遣先企業)のオフィスが一般的です。

派遣契約には必ず、就業場所を定め明記する必要があり、従来はオフィス以外での就業は認めておらず最近流行りのコワーキングスペースを利用したり居宅での在宅勤務といったテレワークを認めることも予定していなかったことから、ほぼすべての派遣契約において、就業場所は、オフィスの所在地がを記載されていました。

今回のようにテレワークによる就業場所として自宅を認めることとした場合、就業場所に派遣労働者の居宅住所を記載することになります。この考えに基づき、具体的に派遣労働者の個人宅の住所を記載するのが間違いないのか悩んだところですが、そうすると取得する個人情報が増えることになり、管理すべき個人情報が増えてしまうことになることから、次のような記載方法を採用することにし、個別具体的な個人宅住所の記載を見送ることにしました。

「〇〇株式会社 〇〇課(〒XXX-XXXX 東京都新宿区〇〇〇1-2-3(オフィス住所))および派遣労働者の自宅」

なお、この記載方法は、その後、厚生労働省の「派遣労働者等に係るテレワークに関するQ&A」(令和2年8月26日公表(令和3年2月4日更新))の中で、「個人情報保護の観点から、派遣労働者の自宅の住所まで記載する必要はないことに留意すること。」と明らかにされました。

業務委託先の業務従事者の場合

原則は、業務を引き受けた会社が業務を遂行するうえで最適な場所を自ら判断し決定することになります。

ただし、作業場所として、業務を依頼した企業内で作業する方が好ましい場合には、依頼する側と引き受ける側のそれぞれの企業が協議し作業場所を決定していくこともあり得る話です。

これまでは、仕事を依頼する企業側としては、情報セキュリティ面の脆弱さを考慮し、在宅勤務(在宅ワーク)などのテレワーク自体を暗黙の了解として認めてこなかったことは周知の事実でしょう。

しかしながら、今回の新型コロナウイルス対策に伴う、外出自粛要請など、従来の業務委託取引ルールに縛られていては、委託する側も受託する側も思うように仕事や業務を進めることができず、経済活動、企業経営さらには各労働者個人の生計の維持にまで致命的な影響を与えかねないとの判断から、テレワークによる業務遂行も認める流れが加速してきたのではないかと感じています。

テレワークを認めるうえで懸念される点である情報セキュリティ面の一定の約束ごと、気を付けていただきたいことを、業務委託先の業務従事者に周知徹底いただくことにより在宅勤務(在宅ワーク)を容認するための文書取り交わしを進めたところです。

2.テレワーク実施対象者の選定

在宅勤務(在宅ワーク)などのテレワークを認める人をどう決めるのか、どこまでの人を認めるのか、というところにも頭を悩ませたところです。

ここは、職場ごとに派遣労働者や業務委託先の業務従事者の支援にどれだけ依存しているのかによって必要の度合いが左右してくるところでしょうから、組織単位で対象者の見極めをし、対象者の選定を進めていくことになるところでしょう。

結果的には、ほぼすべての派遣労働者と委託先の業務従事者がテレワークにより業務にかかわっていただきましたし、社員全体に目を向けてみても約95%近くの方がテレワークによって業務に対応したということになったようです。

3.テレワーク実施に必要となる機器等の準備・手配・費用負担

派遣労働者の場合であれば、業務に必要となる機器等の準備・手配とその費用は、派遣先(派遣労働者を受け入れる側)の企業が負担することになり、テレワークを実施するうえで必要となる機器類も同じことになるものだと思われます。

これに対して、業務委託の場合は、原則は、仕事を受託した側の企業が自らの費用で用意すべきところですが、業務によっては、情報セキュリティ面のリスクを抑制することを優先して、委託する側が業務に使用する機器を指定する場合があります。

この場合は、どちらが費用を負担するのか、双方で折半するのであれば、その費用負担割合はどうするのか、といったことを話し合い取り決めておいた方がいいように思います。

あわせて、資産管理の面からも貸与する機器など、後日、きちんと返却いただく際に何をどれだけの数量、貸与し貸与されたのかを双方が認識をあわせておく必要がありますし、将来的なトラブル防止の観点からも貸与物の目録、一覧を作成し双方で確認しておくことも大事なことになろうかと思います。

 

「テレワーク実施についての覚書」

以下に、派遣労働者に在宅勤務(在宅ワーク)によるテレワークを実施いただけるようにするための覚書となるベース素材をポイントに絞った内容ではありますがサンプルとして公開させていただきます。

テレワーク実施の覚書 -概略版-

テレワーク実施の覚書

派遣先である株式会社〇〇〇(以下「甲」という。)と派遣元である株式会社△△△(派遣会社のことであり、以下「乙」という。)とは、〇年〇月〇日締結の労働者派遣契約に基づく〇〇〇業務(以下「本件業務」という。)の実施について、乙の派遣労働者(以下「派遣社員」という)がテレワークにより実施することについて以下のとおり合意するものとする。

第1条(定義)

テレワークとは、ITツールおよび情報通信機器を利活用し、派遣社員が自身の自宅またはその他テレワーク実施場所として甲と乙が認めた場所において、本件業務を実施することをいうものとする。

第2条(就業機会の確保と事業継続の維持)

甲は、以下に該当する場合、乙と協議し合意のうえで、派遣社員にテレワークの実施による本件業務対応を求めることができるものとする。

(1)・・・

(2)・・・

(3)・・・

〔ヒント:テレワークの実施が必要となる事象をあらかじめ想定しこちらに列挙することを予定した構成としています。例えば、(1)大規模災害発生時、(2)パンデミックの発生またはその恐れのあるとき、などです。〕

第3条(テレワーク実施に係る備品等)

1.テレワークを実施するうえで必要となる機器、備品、等の物品類(以下、総称して「物品類」といいます)の手配・準備は〇〇が行うものとし、物品類・電気代・通信費・等の費用負担については、△△が負担するものとする。

2.甲が乙に貸与する物品類があるときは、別途、貸与物一覧を作成し本覚書の一部としてこれを添付する。

第4条(適用)

本覚書の記載内容について疑義が生じた場合、本覚書に定めがない場合についての対処は、・・・とする。

第5条(テレワーク実施期間/有効期間)

テレワークの実施を認める期間は、・・・とし、本覚書の有効期間は、・・・とする。

以上、この覚書締結の証として、本書正本2通を作成し、双方記名押印のうえ甲乙それぞれが1通を保有する。

〇〇年〇〇月〇〇日

<甲>                     <乙>

東京都新宿区〇〇1-2-3            東京都渋谷区ハチ公前A-B-C

〇〇〇〇株式会社                 〇〇〇〇株式会社

代表取締役 〇〇〇〇               代表取締役 〇〇〇〇

なお、こちらの覚書素材は、あくまでもみなさまそれぞれのご事情にマッチした覚書を作成いただくために参考としていただくためのベース素材でしかありませんので、この点についてはご理解、ご認識のうえご活用いただきたく思います。ぜひ、適宜、個々の諸事情を考慮いただき、必要な規定を追加・調整いただき最適な内容へカスタマイズいただきご利用いただければ幸いです。

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