契約書 秘密保持契約書

経産省の秘密情報の保護ハンドブックから秘密保持契約書を学ぶ 

2020年6月12日

ビジネスの中で取り交わされる契約書の上位に必ず入るのではないかと思っているのが「秘密保持契約書(NDA)」です。

契約書タイトルから想像できるとおり、情報を秘密として適切に管理・保持していただくことを目的として取り交わされる契約書ですね。

以前にも、「秘密保持契約書とは?」ということで解説したことがありましたので、よろしければそちらも参照してみてください。

以前解説したときは、概念的なお話に終始してしまい、具体的に秘密保持契約書自体の中身をご覧いただきながら考察を深めることができませんでした。

そこで、今回は、経済産業省が公開してくださっている「秘密情報の保護ハンドブック」の中に、素材として活用させていただけそうな秘密保持契約書の事例が用意されていましたので、活用させていただこうと思います。

経済産業省発行「秘密情報の保護ハンドブック」から秘密保持契約書を学ぶ

前文

 

【前文】

〇〇〇株式会社(以下「甲」という。)と△△△株式会社(以下「乙」という。)とは、□□□□について検討するにあたり(以下「本取引」という。)、甲又は乙が相手方に開示する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

秘密保持契約書を取り交わす場合、契約目的を明らかにしておくことはとても重要なことです。

なぜなら不用意に守秘義務を負うことになれば、実務上のフットワークが鈍くなり無用な足かせを互いに課しまたは課されることになるからです。

ですから、守秘義務を負ってまで情報を開示し開示される場合は、その目的、何のために情報の開示と授受が行われるのか明らかにしておくべきということです。

このことにより守秘義務を負う範囲をある程度抑制しようというねらいがあると私は考えています。

第1条(秘密情報)

第1条(秘密情報)

本契約における「秘密情報」とは、甲または乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上または営業上の情報、本契約の存在および内容その他一切の情報をいう。

ただし、開示を受けた当事者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。

① 開示を受けたときに既に保有していた情報

②開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報

③開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、または創出した情報

④開示を受けたときに既に公知であった情報

⑤開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

第1条でのポイントだと私が考えていることは、“開示の際に秘密である旨を明示した技術上または営業上の情報、本契約の存在および内容その他一切の情報”のくだりでしょうか。

秘密保持契約書や秘密保持契約書以外のその他の契約書であってもほぼ存在する守秘義務(秘密保持)条項において、時折みかける次の秘密情報の定め方ですと、秘密保持義務(守秘義務)を負う側としては、守備範囲が広くなり過ぎるうえに情報管理がとても難しくなり現実的にかなりの負荷が生じてくることでしょう。

そこで、秘密保持義務(守秘義務)を負う側としては、何が秘密情報なのかを明らかにしておくことはとても有益なことでもありますし、重要なことでもあるわけです。

秘密保持義務(守秘義務)を負うことになる秘密情報の受領者が避けたい条文例

本契約における「秘密情報」とは、甲または乙が相手方に開示する技術上または営業上の情報、本契約の存在および内容その他一切の情報のすべてをいう。

逆に、自社サイドは情報を開示するのみで、一切、重要な情報を開示することは生じないということが確実なのであれば、上記条文例を採用した方が有利となることは明らかですよね。

ただし、ここで気を付けておきたいこととして、将来的に逆の立場が生じ得る可能性が高いと判断される場合は、先方から同じ条件で約定することを求められることもあり得るということを想定したうえで、対応方針を決定すべきことになるでしょう。

実際に、私も経験があるのですが、しっかりとして法務部門を擁する企業の場合、過去の取引や現存する契約条件まで精査したうえで、契約交渉をしてくる素晴らしい契約統制力のある企業も存在することは認識されておいた方がよいでしょう。

 

第2条(秘密情報等の取扱い)

第2条(秘密情報等の取扱い)

1.甲又は乙は、相手方から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。以下 「秘密情報等」という。)の取扱いについて、次の各号に定める事項を遵守するものとます。

① 情報取扱管理者を定め、相手方から開示された秘密情報等を、善良なる管理者としての注意義務をもって厳重に保管、管理する。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

本条の配置目的は、1項で定義する「秘密情報等」の取扱上の約束事を明らかにしておくことを目的としています。
秘密情報を責任もって管理いただくためにも、①号では「情報取扱管理者」をたてるようにしています。
これは情報セキュリティの観点からは有効な決め事だと思います。
主体的に管理する人を配置しておきませんと、情報に係わる大部分の人は、おおにして他人事になりがちで、情報管理が適切に管理されないということになりがちですから。
また、責任レベルも「善良なる管理者としての注意義務」=「善管注意義務」と高めの注意義務を相手方に課し自らも負うということになりますので、お互いに高いレベルで注意を払い秘密情報を適切かつ厳重に管理せねばならぬという責任を負うことになります。

② 秘密情報等は、本取引の目的以外には使用しないものとする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

自社にとって重要な情報資産であるからこそ秘密情報なのでしょうから、開示した情報を好きなように使われてしまいますと自社の大事な営業情報や技術情報が相手方のビジネスに活用されてしまうおそれがあり、もし、そうなりますと自社の競争力が削がれてしまうことにつながりかねないということも十分に考えられます。そこで、そもそも秘密情報の開示、授受がなぜ必要なのか、その点を今一度この契約書の前文にある「本取引」の目的のためにしか使用してはいけませんよ、と使用範囲を制限しておくことを目的として配置された規定だととらえています。

 

③ 秘密情報等を複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管、管理をする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

お互いに授受する秘密情報自体(紙でいえば原本といった方が分かりやすいかな)は、この秘密保持契約書に従い適切に管理することになりますし、守秘義務を課しまたは課されという関係になることはご承知のとおりなのですが、では、そのコピーしたもの(つまり複製物)はどうなるのでしょう?

この点について思いが及ばない方もいらっしゃいますし、いざ情報漏洩事故やトラブルが発生したときに、契約上明文化しておいた方が変な抗弁をされずにすみますよね。

そういうわけで、秘密情報を複製したものについても秘密情報と同じものですよ、ということを明らかにしておくことは無駄なことではなく大事なことだということです。

ちなみに、こちらの契約書では、「秘密情報等を複製する場合」と複製行為を容認していますが、自らが秘密情報を開示する立場であり、その開示する秘密情報が複製すること自体認められない情報と考えるのでしたら、複製は原則NGとして、複製が必要な場合は、自社の承諾を得てくださいね、といった内容へ契約書を書き換える、といった手当も考える必要がでてくる場面がありますので、情報の内容と重要性についての事業部門側との認識あわせ他の確認作業は馬鹿にできないところです。

 

④ 漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又そのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

秘密情報を漏えいしたり、紛失したり、盗み取られるなどの俗にいう情報セキュリティ事故が発生した場合に、秘密情報を預けている当事者が何も知らされないことはさらにリスクを拡げることになるおそれもあることから、あらかじめ情報セキュリティ事故が発生した場合は、直ちに書面で通知しましょう、というルールを定めておこうという規定だと考えられます。

この経産省の秘密保持契約書の条文例について、「書面をもって」と通知方法を「書面」と指定する必要があるのか?という点において、私は、少々疑問に思うところがあります。

情報セキュリティ事故が発生した場合は、書面よりもなによりも、その事実をすぐに相手に知らせることが優先されるべきではないかという思うのです。どうやって知らせるのかその方法は二の次なのではないかと考えています。

「直ちに」という、「すぐに」という意味をもつ用語としては、一番厳しい用語を用いていることから、実務上は影響がないとも考えられますが、私が自社の条文として採用するならこのあたりは手当てしておきたいと思っているところです。

 

⑤ 秘密情報の管理について、取扱責任者を定め、書面をもって取扱責任者の氏名及び連絡先を相手方に通知する。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

ビジネスの中で多数の秘密保持契約書を審査してきましたが、ここまで明示している契約書はさほど多くなかったように思われます。しかし、これからの時代は、ますますこういった具体的に誰にきちんと預けた秘密情報の管理をしてくれるのかを明らかにし、責任をもって社内統制してもらえる方はあらかじめ選任し、情報を開示し預けてくれた当事者へ通知しておくことはとても大事なことだと考えています。

なぜでしょう?

人は、こういった情報管理などの煩雑で面倒くさいことは他人事として対応しがちで、自発的に自ら取り組もうとする人は実はさほど多くないのではないでしょうか?

まさに、私がその類なのですが、、、

こういった事情から責任をもって秘密情報を管理してくれる方を決め、社内統制を図ってもらえるように仕組み化しておくことはますます意味をもつこととなるでしょう。

 

2.甲又は乙は、次項に定める場合を除き、秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面により相手方の事前承諾を得なければならない。この場合、甲又は乙は、当該第三者との間で本契約書と同等の義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

秘密保持契約書を締結したからといって、相手からお預かりする秘密情報を自由に第三者に開示してよいというものではありません。この規定により、第三者に秘密情報を開示する必要がある場合は、事前に秘密情報の開示者に承諾、それも書面による承諾があって、はじめて開示できるようになるわけです。

これは、守秘義務を契約上で負うのは契約書に合意し署名捺印・記名押印する者、契約締結の当事者だけです。
第三者は、この秘密保持契約書の効力は及びません。
そこで、第三者への情報開示に制限をかけ、情報漏洩リスクをコントロールしようとしているわけですね。

ここで気を付ける必要があることとして、例えば、こちらの秘密保持契約書を取りかわし、委託先に情報を共有する必要があったときはどうでしょう。困ったことになりそうですね。

この場合は、適宜、契約書の条文修正を行う必要がでてきますのでくれぐれもご留意ください。

 

3.甲又は乙は、法令に基づき秘密情報等の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

秘密保持契約の締結により、双方いずれも守秘義務を負うことになり、相手方の書面による事前承諾を得なければ第三者への開示は厳禁となるわけですが、例外として、裁判所等の司法機関や行政機関等の命令や要請などに応じざるを得ない場面が生じないとも考えられますので、あらかじめ、そのような事態が生じたときに対処し得るようにしておきましょう、というときのために配置された規定となります。

 

第3条(返還義務等)

第3条(返還義務等)

1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。

2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去とともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

秘密情報をお預かりする必要がなくなった場合やこの秘密保持契約を締結した目的を達成しまたは達成する見込みがなくなり秘密情報を預けまたは預かっておく必要がなくなった場合に、預けた秘密情報の返還を請求できるようにしておくこと、預かった秘密情報を返還できるようにしておくことは必要ですし、そのような場面が生じたときのルールをあらかじめ定めておこうというのが本条を設ける目的といえるでしょう。

 

第4条(損害賠償等)

甲若しくは乙、甲若しくは乙の従業員若しくは元従業員又は第二条第二項の第三者が相手方の秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

本契約を締結する最大の目的が自らが保有する重要な情報資産の漏えい、流出を防止することであり、そのためにしっかりと守秘義務を負っていただいたうえで適切に管理していただこうという契約ですから、秘密情報を承諾をしていない第三者に開示したり、流出・漏洩させたりした場合は、当然に損害賠償請求の対象となりますし、念押し、牽制の両面からこちらの規定が設けられていると考えています。

ちなみに、今回、経産省のこちらのサンプルを分析させていただき学んだこととして、1行目の前半で「乙の従業員若しくは元従業員」と一般的には「乙」に包含しているつもりのこれら当事者を明文化しておくことの有益性に気づかせていただきました。

将来的に「乙の従業員や元従業員」は「乙」に包含されていると争うようなことになったときに、無用な解釈論をあらかじめ封じておくことにつながるからこのような手当て、文書作成をしたのだろうなと考えた次第です。

 

本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満〇年間とする。期間満了後の〇ヶ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに〇年間継続するものとし、以後も同様とする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

あなた、または、あなたの所属する企業が秘密情報を開示するだけで、相手方に守秘義務を課す場合に限られた秘密保持契約書であれば、この経産省のサンプル条項でよいのでしょう。

しかし、これが、あなた、または、あなたの所属する企業だけが守秘義務を負う契約書であったり、双方いずれも守秘義務を負う秘密保持契約書であった場合、守秘義務を長期に渡り負い続けることになりかねないため、自動継続規定とするのかどうかについての判断は慎重に見極めることになろうかと考えます。

 

第6条(協議事項)

本契約に定めのない事項について又は本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

日本国内でよくみかける規定です。日本国内の取引契約では、契約に記載のないことや解釈に疑義がある場合といった場合、お互いが誠実に話し合いこれを解決していきましょう、ということをわざわざ明文化しているところとなります。

いかにも日本的な規定で、できるだけ平和裏に解決しましょうね、といった規定となります。

訴訟大国であるアメリカなどの海外の英文契約とはこの点が大きく異なるところでしょう。

第7条(管轄)

本契約に関する紛争については〇〇地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

後日、解説いたします。

 

末文/日付/記名押印欄

本契約の締結の証として、本書を二通作成し、両者署名又は記名押印の上、各自一通を保有する。

平成〇年〇月〇日

(甲)〇〇〇〇〇〇株式会社

代表取締役 竈門 炭治郎

(乙)△△△△△△株式会社

代表取締役 富岡 義勇

(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブックより)

後日、解説いたします。

 

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