「下請法」を学ぶ

「下請法」とはどのような法律なのでしょう

下請法とは、簡単に噛み砕いていいますと、立場的に優位(強い)な事業者から仕事を引き受ける比較的弱い立場となる事業者が、不利な取引を強いられないように保護することを目的として作られた法律です。

正式名称は、「下請代金支払遅延等防止法」といいまして、一般的には通称として「下請法」と呼ばれている、全条文数が12条しかない法律なのです。そう、たったの12条しかないのです。ちょっと驚きですよね。
さすがにこれだけでは読み解けない部分が生じてしまいますので、そこをカバーするために下記政令を制定したり規則、他を定めたり、さらにはガイドライン的性格をもつ「下請取引適正化推進講習会テキスト」を刊行したりして穴埋めをしているということになります。

  • 「下請代金遅延等防止法施行令」
  • 「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」
  • 「下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則」
  • 「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」
  • 「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」
  • 「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
  • 「下請代金の支払手段について」
  • 「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の下請代金支払遅延等防止法及び独占禁止法の運用について」
  • 「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」
  • 「電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の下請代金支払遅延等防止法及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の運用について」
  • 「電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」
  • 「サプライチェーン・マネジメントに関する考え方」
  • 「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」
  • 18業種別のガイドライン

 下請取引に該当するものを理解しよう

下請法の取引規制の網がかかる下請取引には、下記の2つの条件がそれぞれリンクした場合に、はじめて下請法の取引対象となってくるものです。

  • 6つの取引内容
  • 両当事者(親事業者と下請事業者)の資本金の関係

まずは、下請法の取引対象となってくるものを判別する方法を正しく理解しておきましょう。

★物品の製造委託
★修理委託
★情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る。)
★役務提供委託(※運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る。)

(親事業者)                (下請事業者)
資本金3億円超の法人事業者      資本金3億円以下の法人事業者
又は個人事業者

資本金1千万円超3億円以下      資本金1千万円以下の法人事業者
の法人事業者              又は個人事業者

★情報成果物作成委託(プログラムの作成を除く。)
★役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く。)

(親事業者)                (下請事業者)
資本金5千万円超の法人事業者     資本金5千万円以下の法人事業者
又は個人事業者

資本金1千万円超5千万円以下     資本金1千万円以下の法人事業者
の法人事業者             又は個人事業者

下請法は独占禁止法(通称:独禁法)の補完法として制定されたもの

下請代金の支払遅延等の行為は、もともと独占禁止法による下請事業者の保護を予定していたものであるが、認定に相当の時間を要するため、下請事業者の利益とならないこともででてくるとして、簡易な手続きが必要だとして、下請法が独占禁止法の補完法として制定されたものです。

4つの義務と11の禁止事項

下請法で親事業者に対する4つの義務と11の禁止事項が定められています。

 「4つの義務」

  • 書面の交付義務(第3条)
  • 書類の作成・保存義務(第5条)
  • 下請代金の支払期日を定める義務(第2条の2)
  • 遅延利息の支払義務(第4条の2)

 「11の禁止事項」

  • 受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
  • 下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
  • 下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号)
  • 返品の禁止(第4条第1項第4号)
  • 買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
  • 購入・利用強制の禁止(第4条第1項第6号)
  • 報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
  • 割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
  • 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
  • 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(第4条第2項第4号)

 

取引内容

下請法の取引内容としては、「物品の製造」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」の4つがあり、それぞれにいくつのかの取引類型が用意されており、これらのいずれかに該当することが下請取引の一要件となっています。

 製造委託

第2条(定義)
この法律で「製造委託」とは、事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、付属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合に
その物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託することをいう。

ー運用基準第2の1よりー

製造委託には、次の4つの類型が用意されています。

類型1
事業者が業として行う販売の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること。

類型2
事業者が業として請け負う製造の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること。

類型3
事業者が業として行う物品の修理に必要な部品又は原材料の製造を他の事業者に委託すること。

類型4
事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること。

修理委託

第2条(定義)
2 この法律で「修理委託」とは、事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託することをいう。

ー運用基準第2の2よりー

修理委託には、次の2つの類型が用意されています。

類型1
事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。

類型2
事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託すること。

情報成果物作成委託

第2条(定義)
3 この法律で「情報成果物作成委託」とは、事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。

ー運用基準第2の3よりー
情報成果物作成委託には、次の3つの類型が用意されています。

類型1
事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。

類型2
事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。

類型3
事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。

役務提供委託

第2条(定義)
4 この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。
※ ただし、建設業(建設業法第2条第2項に規定する建設業をいう。)を営む者が、業として請け負う建設工事(同条第1項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせる場合は本法の対象とはならない。

ー運用基準第2の4よりー

役務提供委託には、次の類型が用意されています。

類型
事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。

2021年12月28日

執筆者: 伍桃 さんじろう

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