下請代金支払遅延等防止法(下請法)
正式な法律名は、「下請代金支払遅延等防止法」といい、通称「下請法」と呼ばれています。
法律名が長いものは、略称で呼ばれるものも多く、以外とその略称の方が一般的に知られている傾向にあるようです。
Contents
条文に入る前に概要をまなぶ
いきなり下請法の条文に入っていくと気を失う方もでてくるかもしれません。また、じっくり条文を読み解くよりも前に、ザックリと概要を掴んだうえで条文に入っていく方が理解が進むとも考えられます。
さらには、急ぎ、下請取引にあたるのかどうかを実務上、見極めたいという方もおられるでしょう。
そこで、シンプルに下請取引のポイントを整理してくれている中小企業庁のページがありますので、上記にあてはまるような方はまずはこちらを参照いただくとよいと思います。
参考サイト
第1条 (目的)
この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。
第1条を読み解く
この法律(以下、「下請法」といいます)の制定の目的・趣旨が本条で明らかにしようとしています。
下請法が特に保護しようとしている主体は、下請事業者と捉えるのが自然であろうと思われます。
下請法により下請事業者が保護され安定した経営基盤を構築し継続できることにより、親事業者も同時に円滑で安定した事業活動ができるということにつながり、ひいては、国民経済の健全な発達につながるといった副次的・間接的に恩恵を受けることにつながるということをいっているのだととらえています。
なお、「親事業者」と「下請事業者」という用語については、下請法 第2条第7項 および 下請法 第2条第8項において定義されています。
おまけ:上記文書のなかで、「ひいては」という用語が適切なのか迷いましたので国語の勉強です。
調べてみると「ひいては」という用語は、「最終的には」、「結局は」または「とどのつまり」という意味となるようですし、私が迷った「しいては」という用語は、「強(し)いる」、つまり強制するような意味となる用語となるようです。
日本語も似たものが多くありますが一字違うと全く異なる意味となりますから特に契約文書やトラブル時の文書作成の際は、十分に気を付ける必要がありますね。
第2条 (定義)
2条1項
この法律で「製造委託」とは、事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託することをいう。
第2条第1項を読み解く
下請法でいう「製造委託」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
〇 下記4つの類型のいずれかにあたる取引が下請法でいう「製造委託」となります。
〔類型1〕
事業者が業として行う販売の目的物たる物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること。
〔類型2〕
事業者が業として請け負う製造の目的物たる物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること。
〔類型3〕
事業者が業として行う物品の修理に必要な部品又は原材料の製造を他の事業者に委託すること。
〔類型4〕
事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品,部品,附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること。
2条2項
この法律で「修理委託」とは、事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託することをいう。
第2条第2項を読み解く
下請法でいう「修理委託」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
〇 下記2つの類型のいずれかにあたる取引が下請法でいう「修理委託」となります。
〔類型1〕
事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
〔類型2〕
事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託すること
2条3項
この法律で「情報成果物作成委託」とは,事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。
第2条第3項を読み解く
下請法でいう「情報成果物作成委託」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
〇 下記3つの類型のいずれかにあたる取引が下請法でいう「情報成果物作成委託」となります。
〔類型1〕
事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
〔類型2〕
事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
〔類型3〕
事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
2条4項
この法律で「役務提供委託」とは,事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和 24 年法律第 100 号)第2条第2項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第1項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。
第2条第4項を読み解く
下請法でいう「役務提供委託」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
〇 下記の類型にあたる取引が下請法でいう「役務提供委託」となります。
〇 事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
2条5項
この法律で「製造委託等」とは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。
第2条第5項を読み解く
下請法でいう「製造委託等」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
〇 下請法第2条第1項から同条第4項で定義した下記4つの委託形態を総称したものが「製造委託等」ということです。
・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託
・役務提供委託
2条6項
この法律で「情報成果物」とは,次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画,放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字,図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四 前3号に掲げるもののほか,これらに類するもので政令で定めるもの
第2条第6項を読み解く
下請法でいう「情報成果物」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
〇 「情報成果物」を具体的に列挙すると
・プログラム
・映画、放送番組、その他影像により構成されるもの、音声その他の音響により構成されるもの
・文字、図形、記号、これらの結合により構成されるもの、これらと色彩の結合により構成されるもの
・上記に類するものを政令で定めるとしている。(※)
(※)現時点(2022.1.23)で、政令で定められているものはありませんでした。
2条7項
この法律で「親事業者」とは,次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 資本金の額又は出資の総額が3億円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和 24 年法律第 256 号)第 14 条に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が3億円以下の法人たる事業者に対し製造委託等(情報成果物作成委託及び役務提供委託にあつては,それぞれ政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る。次号並びに次項第1号及び第2号において同じ。)をするもの
二 資本金の額又は出資の総額が 1000 万円を超え3億円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第 14 条に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が 1000 万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの
三 資本金の額又は出資の総額が 5000 万円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第 14 条に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が 5000 万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託(それぞれ第1号の政令で定める情報成果物又は役務に係るものを除く。次号並びに次項第3号及び第4号において同じ。)をするもの
四 資本金の額又は出資の総額が 1000 万円を超え 5000 万円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第 14 条に規定する者を除く。)であつて,個人又は資本金の額若しくは出資の総額が 1000 万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの
第2条第7項を読み解く
下請法でいう「親事業者」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
親事業者に該当する条件(下記いずれかに該当するものが親事業者となります。)
〇資本金が3億円を超える法人・事業者が個人または資本金が3億円以下の法人・事業者に下記の委託取引を依頼する場合に親事業者となる
・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託についてのみ)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理についてのみ)
〇資本金が1千万円を超え3億円以下の法人・事業者が個人または資本金が1千万円以下の法人・事業者に下記の委託取引を依頼する合に親事業者となる
・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託についてのみ)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理についてのみ)
〇資本金が5千万円を超える法人・事業者が個人または資本金が5千万円以下の法人・事業者に下記の委託取引を依頼する場合に親事業者となる
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託は除外)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理は除外)
〇資本金が1千万円を超え5千万円以下の法人・事業者が個人または資本金が1千万円以下の法人・事業者に下記の委託取引を依頼する場合に親事業者となる
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託は除外)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理は除外)
2条8項
この法律で「下請事業者」とは,次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が3億円以下の法人たる事業者であつて,前項第1号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が 1000 万円以下の法人たる事業者であつて,前項第2号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
三 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が 5000 万円以下の法人たる事業者であつて,前項第3号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
四 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が 1000 万円以下の法人たる事業者であつて,前項第4号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
第2条第8項を読み解く
下請法でいう「下請事業者」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
下請事業者に該当する条件(下記いずれかに該当するものが下請事業者となります。)
〇個人または資本金が3億以下の法人・事業者が資本金が3億円を超える法人・事業者から下記委託取引を受託する場合に下請事業者となる
・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託についてのみ)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理についてのみ)
〇個人または資本金が1千万円以下の法人・事業者が資本金が1千万円を超え3億円以下の法人・事業者から下記委託取引を受託する場合に下請事業者となる
・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託についてのみ)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理についてのみ)
〇個人または資本金が5千万円以下の法人・事業者が資本金が5千万円を超える法人・事業者から下記委託取引を受託する場合に下請事業者となる
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託は除外)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理は除外)
〇個人または資本金が1千万円以下の法人・事業者が資本金が1千万円を超え5千万円以下の法人・事業者から下記委託取引を受託する場合に下請事業者となる
・情報成果物作成委託(プログラム作成委託は除外)
・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理は除外)
2条9項
資本金の額又は出資の総額が 1000 万円を超える法人たる事業者から役員の任免,業務の執行又は存立について支配を受け,かつ,その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者が,その製造委託等に係る製造,修理,作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合(第7項第1号又は第2号に該当する者がそれぞれ前項第1号又は第2号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第7項第3号又は第4号に該当する者がそれぞれ前項第3号又は第4号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をす
る場合を除く。)において,再委託を受ける事業者が,役員の任免,業務の執行又は存立について支配をし,かつ,製造委託等をする当該事業者から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは,この法律の適用については,再委託をする事業者は親事業者と,再委託を受ける事業者は下請事業者とみなす。
第2条第9項を読み解く
資本金が1千万円を超える法人・事業者(ここでは事例としてA社とします。)から役員の任免や業務執行などについて一定の支配を受けている場合(支配を受ける会社をB社とします。)で、A社がB社に業務を委託し、B社がその業務の全部または相当部分を別のC社に再委託する場合は、A社が直接C社に業務を委託すれば、A社が下請法第2条第7項で定義する親事業者に該当してくることになるのであれば、B社がC社に再委託する場合は、B社を親事業者、C社を下請事業者に該当するものとして下請法の適用を受けることになるということです。
2条10項
この法律で「下請代金」とは,親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付(役務提供委託をした場合にあつては,役務の提供。以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。
第2条第10項を読み解く
下請法でいう「下請代金」とは何かを定義した条文です。
条文を簡単に箇条書きで分解し整理してみますと次のようになってきます。
下請取引において、親事業者が下請事業者に下請取引の対価として支払うことになる代金のことを「下請代金」ということになります。
第2条の2(下請代金の支払期日)
2条の2 1項
下請代金の支払期日は,親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず,親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して,60 日の期間内において,かつ,できる限り短い期間内において,定められなければならない。
第2条の2 第1項を読み解く
下請代金の支払日は、委託した業務の提供を受けた日(給付を受領した日)から60日以内という期間内でできるだけ短い日にちを支払日を定めないといけないということを規定しています。
間違ってはいけないこととして、検査をするかどうかは関係ない、つまり、検査が終わっていないということで支払いが遅れることは認めないということになっていますので気を付けていただくところとなります。
2条の2 2項
下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が,前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす。
第2条の2 第2項を読み解く
本条は、下請法で親事業者に課される4つの義務の一つである「下請代金の支払期日を定める義務」を定めた条文です。
下請代金の支払期日を定めることを第2条第1項で義務づけられているにもかかわらず、これを守られていない場合のルールを定めています。以下に分解して記しておきます。
〇 「下請代金の支払期日が定められていない場合」 ➡ 「下請事業者から給付を受領した日」が支払期日
〇 「下請事業者から給付を受領した日から60日を超えて支払期日が定められている場合」➡「下請事業者から給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日」が支払期日
例) 給付を受領した日「4/30」 、支払期日を「7/15」としている場合
4/30から60日を経過した日が「6/29」となり、その前日「6/28」が支払期日 となります。
第3条(書面の交付等)
3条1項
親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,直ちに,公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容,下請代金の額,支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし,これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては,その記載を要しないものとし,この場合には,親事業者は,当該事項の内容が定められた後直ちに,当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
本条は、下請法で親事業者に課される4つの義務の一つである「書面の交付義務」を定めた条文です。
第3条 第1項 を読み解く
親事業者は製造委託等する場合、直ちに所定の記載事項を記載した書面(注文書等)を下請事業者に交付しなければならないとされています。また、その所定の記載事項は以下のとおりと公正取引委員会規則で定められています。
■所定の記載項目■
① 親事業者および下請事業者の名称(番号、記号等による記載も認められています。)
② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供 をした日
③ 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)
④ 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日または期間)
⑤ 下請事業者の給付を受領する場所(役務提供委託の場合は、役務が提供される場所)
⑥ 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦ 下請代金の額
⑧ 下請代金の支払期日
⑨ 下請代金の全部または一部の支払につき、手形を交付する場合は、その手形の金額(支払比率の記載も認められています。)および手形の満期
⑩ 下請代金の全部または一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付けまたは支払を受けることができることとする額、親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
⑪ 下請代金の全部または一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額および電子記録債権の満期日
⑫ 原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日および決済方法ただし、書面の内容が定められず記載できないことに正当な理由がある場合、その記載をしないでよいと定められています。この場合、記載できなかった項目について定められた後すぐにその記載できなかった事項を記載した書面を交付しなければならないとされています。
3条2項
親事業者は,前項の規定による書面の交付に代えて,政令で定めるところにより,当該下請事業者の承諾を得て,当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において,当該親事業者は,当該書面を交付したものとみなす。
第3条 第2項 を読み解く
昨今のIT技術の進展により、紙で書面を交付するのではなく、電子メール等の利活用により代替できるルールが定められた条文となります。ただし、紙での書面交付ではなく、電子メール等での電子的手続きで代替することについて、あらかじめ下請事業者から承諾を得ておく必要があることも定められています。
なお、この場合に親事業者が下請事業者から承諾を得るのみ用いる書式例が公正取引委員会から公表されています。
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第4条(親事業者の遵守事項)
本条は、下請法で親事業者に求められる「11の禁止事項」を定めた条文となります。
4条1項
親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
一 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の受領を拒むこと。
二 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請代金の額を減ずること。
四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付を受領した後,下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
六 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き,自己の指定する物を強制して購入させ,又は役務を強制して利用させること。
七 親事業者が第1号若しくは第2号に掲げる行為をしている場合若しくは第3号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として,取引の数量を減じ,取引を停止し,その他不利益な取扱いをすること。
第4条 第1項 を読み解く
行為自体が禁止されているものとして下記7つの行為が列挙されています。
1.受領拒否の禁止
2.下請代金の支払遅延の禁止
3.下請代金の減額の禁止
4.返品の禁止
5.買いたたきの禁止
6.購入・利用強制の禁止
7.報復措置の禁止
4条2項
親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあっては,第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて,下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己に対する給付に必要な半製品,部品,附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に,支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し,又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
二 下請代金の支払につき,当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
三 自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の内容を変更させ,又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。
第4条第2項 を読み解く
第4条第1項は行為そのものが禁止であったのに対し、2項に掲げられる行為については、行為自体が直ちに違法となるものではなく、行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害したかどうかにかかってくるという点で1項と異なるということになります。
ここでの禁止行為としては下記4つの行為が列挙されています。
1.有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
2.割引困難な手形の交付の禁止
3.不当な経済上の利益の提供要請の禁止
4.不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
第4条の2(遅延利息)
親事業者は,下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかつたときは,下請事業者に対し,下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して 60 日を経過した日から支払をする日までの期間について,その日数に応じ,当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
第4条の2 を読み解く
本条は、下請法で親事業者に課される4つの義務の一つである「遅延利息の支払義務」を定めた条文です。
親事業者が支払遅延を起こし、下請事業者から給付を受領した日から60日を経過した日から支払いをする日
までの期間分の遅延利息を支払わなければならないとされています。
なお、遅延利息の利率は2022年1月23日現在「14.6%」と公正取引委員会規則で定められています。
第5条(書類等の作成及び保存)
親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,公正取引委員会規則で定めるところにより,下請事業者の給付,給付の受領(役務提供委託をした場合にあつては,下請事業者がした役務を提供する行為の実施),下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成し,これを保存しなければならない。
第5条 を読み解く
本条は、下請法で親事業者に課される4つの義務の一つである「書類の作成・保存義務」を定めた条文です。
下請取引の一連のやり取りを記録し保存しておくことで下請事業者の保護を図ろうと規定した条文と考えられます。
必要な記載事項を記録し保存するべきものとして下記の記載事項が挙げられています。
なお、記録・保存の方法は紙だけに限定されたものではなく電子的方式等、昨今のIT技術の進歩に応じた対応も
認められています。
■必要な記載事項■
① 下請事業者の名称(番号、記号等による記載も認められています。)
② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託または役務提供委託をした日
③ 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、役務の提供の内容)
④ 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日または期間)
⑤ 下請事業者から受領した給付の内容および給付を受領した日(役務提供委託の場合は、役務が提供された日または期間)
⑥ 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について、検査をした場合は、その検査を完了した日、検査の結果および検査に合格しなかった給付の取扱い
⑦ 下請事業者の給付の内容について、変更またはやり直しをさせた場合は、その内容および理由
⑧ 下請代金の額(下請代金の額として算定方法を記載した場合には、その後定まった下請代金の額を記載しなければならない。また、その算定方法に変更があった場合、変更後の算定方法、その変更後の算定方法により定まった下請代金の額および変更した理由を記載しなければならない。)
⑨ 下請代金の支払期日
⑩ 下請代金の額に変更があった場合は、増減額およびその理由
⑪ 支払った下請代金の額、支払った日および支払手段
⑫ 下請代金の全部または一部の支払につき、手形を交付した場合は、その手形の金額、手形を交付した日および手形の満期
⑬ 下請代金の全部または一部の支払につき、一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付けまたは支払を受けることができることとした額および期間の始期ならびに親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
⑭ 下請代金の全部または一部の支払につき、電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、支払を受けることができることとした期間の始期および電子記録債権の満期日
⑮ 原材料等を有償支給した場合は、その品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日および決済方法
⑯ 下請代金の一部を支払いまたは原材料等の対価の全部もしくは一部を控除した場合は、その後の下請代金の残額
⑰ 遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額および遅延利息を支払った日
第6条(中小企業庁長官の請求)
中小企業庁長官は,親事業者が第4条第1項第1号,第2号若しくは第7号に掲げる行為をしているかどうか若しくは同項第3号から第6号までに掲げる行為をしたかどうか又は親事業者について同条第2項各号の一に該当する事実があるかどうかを調査し,その事実があると認めるときは,公正取引委員会に対し,この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができる。
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適正な下請取引を監視、統制していくために中小企業庁長官が執り得る権限を定めた条項です。
下請取引に関する調査権限および公正取引委員会への措置要請が認められています。
第7条(勧告)
7条1項
公正取引委員会は,親事業者が第4条第1項第1号,第2号又は第7号に掲げる行為をしていると認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその下請事業者の給付を受領し,その下請代金若しくはその下請代金及び第4条の2の規定による遅延利息を支払い,又はその不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
7条2項
公正取引委員会は,親事業者が第4条第1項第3号から第6号までに掲げる行為をしたと認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその減じた額を支払い,その下請事業者の給付に係る物を再び引き取り,その下請代金の額を引き上げ,又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
7条3項
公正取引委員会は,親事業者について第4条第2項各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは,その親事業者に対し,速やかにその下請事業者の利益を保護するため必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
第7条 を読み解く
適正な下請取引行政を進めるために公正取引委員会が違反行為に対して勧告措置をとることができるケースを定めています。整理すると以下のとおり。
■下請事業者が被った不利益の原状回復措置
受領拒否 | 受領するよう勧告 |
支払遅延 | 下請代金の支払いを勧告・遅延利息の支払いを勧告 |
下請代金の減額 | 減額した分を支払うよう勧告 |
返品 | 返品したものを引き取るよう勧告 |
買いたたき | 下請代金を引き上げるよう勧告 |
購入・利用強制 | 購入させた物を引き取るよう、または下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採るよう勧告 |
報復措置 | 不利益な取り扱いをやめるよう勧告 |
早期決済/割引困難な手形 | 下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採るよう勧告 |
不当な利益の提供要請 | 下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採るよう勧告 |
不当なやり直し | 下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採るよう勧告 |
■その他必要な措置
本法遵法管理体制を確立するよう勧告 |
本法遵守マニュアルの作成および社内に周知徹底するよう勧告 |
(公正取引委員会 下請取引適正化推進講習会テキストより - 令和3年11月版 - )
第8条(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係)
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和 22 年法律第 54 号)第 20 条及び第 20 条の6の規定は,公正取引委員会が前条第1項から第3項までの規定による勧告をした場合において,親事業者がその勧告に従つたときに限り,親事業者のその勧告に係る行為については,適用しない。
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親事業者が公正取引委員会の勧告に従い適切に対応した場合は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(通称:独占禁止法または独禁法)に従い行為の差し止め、契約条項の削除その他違反行為を排除するための措置を命じること、課徴金の納付命令を適用することを見送りますということを定めています。
第9条(報告及び検査)
9条1項
公正取引委員会は,親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認めるときは,親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ,又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
9条2項
中小企業庁長官は,下請事業者の利益を保護するため特に必要があると認めるときは,親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ,又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
9条3項
親事業者又は下請事業者の営む事業を所管する主務大臣は,中小企業庁長官の第6条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるときは,所管事業を営む親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ,又はその職員にこれらの者の事務所若しくは事業所に立ち入り,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
9条4項
前3項の規定により職員が立ち入るときは,その身分を示す証明書を携帯し,関係人に提示しなければならない。
9条5項
第1項から第3項までの規定による立入検査の権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
第9条 を読み解く
適正な下請取引を指導、監督していくうえで、親事業者または下請事業者への取引についての報告を求めたり立入調査し帳簿等の書類やその他関連物件を検査することを公正取引員会、中小企業庁長官および親事業者・下請事業者を所管する主務大臣に対し権限を付与したことを明らかにした条文です。
第10条(罰則)
次の各号のいずれかに該当する場合には,その違反行為をした親事業者の代表者,代理人,使用人その他の従業者は,50 万円以下の罰金に処する。
一 第3条第1項の規定による書面を交付しなかつたとき。
二 第5条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず,若しくは保存せず,又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。
第10条 を読み解く
下請法でいう4つの義務のうち、「書面の交付義務」と「書類の作成・保存義務」に違反した場合に本条の適用を受けることとなり、50万円以下の罰金となることが定められています。
なお、本条だけをみると罰則の適用は違反行為をした親事業者の代表者・代理人・使用人その他の従業者が処罰されるようになっているのですが、下請法第12条の規定により法人もまた処罰される両罰規定となっていることに注意が必要です。要は、他人事ではいけないということです。
第11条
第9条第1項から第3項までの規定による報告をせず,若しくは虚偽の報告をし,又は検査を拒み,妨げ,若しくは忌避した者は,50 万円以下の罰金に処する。
第11条 を読み解く
公正取引員会、中小企業庁長官および親事業者・下請事業者を所管する主務大臣に対し第9条で認めた報告要請や立入調査、帳簿類の閲覧要請に非協力的な対応、虚偽報告、検査拒絶、検査妨害、等した者に対して50万円以下の罰金として罰せることができることが定められています。
第12条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関し,前2条の違反行為をしたときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対して各本条の刑を科する。
第12条 を読み解く
罰則の適用は会社代表者・行為者(担当者)個人のみならず、会社(法人)も罰せられることになる点に注意が必要です。
要は、他人事ではいけないということです。