ビジネス法務

リファラル採用の可能性と法的留意点を考える

リファラル採用とは

リファラル採用とは、会社の従業員から自社の人材として推薦できる人を紹介してもらうという人材採用の手法をいいます。リファラル採用の語源である「リファラル」とは、英語の「referal」からきており、「紹介、推薦」という意味をもちます。

現在、人材獲得手法がいくつかあるわけですが、このリファラル採用という手法が昨今の人材定着率の減少傾向対策として注目を集めてきているようです。

なぜ今リファラル採用が注目されているのかについて考察します。

リファラル採用が注目される事情・背景

リファラル採用が注目されるようになった事情・背景として2点あります。

  採用競争の激化

  若手人材の離職率上昇と既存社員の定着率低下傾向

採用競争の激化

新型コロナの影響で有効求人倍率が低下傾向にあったものの徐々に回復しつつあります。
低下傾向にあったとはいえ、有効求人倍率(注1,注2)が1倍を下回ることはなく、常時、求職者側が優位な状態にあり採用側は常に篩(ふるい)にかけられ選別される状況が続いています。
内定をだしてもだしても入社まで漕ぎつけないということで採用担当者の苦労は耳にするところです。

(注1)有効求人倍率とは、こちら

(注2)有効求人倍率(季節調整値)は、2022年2月1日 時点で「1.16倍」。 参考情報はこちら

こういったことから、超優良企業で誰もが入社を希望する企業でもない限り、知名度の低さなどが影響し、競争相手が多い状況となれば、なかなか思うような人材を確保することができないということになります。

若手人材の離職率上昇

新卒で入社した社員の3年以内の離職率について厚生労働省が公表しているデータをご覧いただくと例年に比べわずかながら数値が低下し離職率が改善したということではあるものの依然全体をみると3割を超える状況は今なお継続しているといえるようです。

(参考)
令和2年度における新規学卒就職者(平成30年3月卒業者)の離職率は、

  • 新規高卒就職者で36.9%(2020年:39.5%)
  • 新規大卒就職者で31.2%(2020年:32.8%)
    参考情報は、こちら

では、このように離職率が高い状況にあるのはなぜなのでしょうか?

 

独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表している資料の中に「離職者全体にみる「初めての正社員勤務先」を離職した理由」がまとめられています。

この理由については、入社前からある程度の情報を収集しそのうえで入社していたのだとすれば回避できたかもしれないものがあるようです。こういったことからもリファラル採用のメリットとリンクし採用手法としての有効性が高まりつつあるといえるようです。

(参考)若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)

こういった事情・背景からリファラル採用の導入を進めている企業は以外にあるようです。

リファラル採用のメリット

 

  定着率の向上&離職率の抑制

紹介者が友人・知人を紹介する以上、その人の人生をも左右しかねない重大な判断をもちかけることになるわけですから、通常、紹介者は被紹介者に対してあらかじめ自社のいい点、悪い点、仕事の概要、企業風土、福利厚生、などの被紹介者が気にする情報を提供するものです。
そのうえで、被紹介者は紹介者を通じて企業への推薦・紹介を承諾し応募してくるわけですから、入社してみて仕事内容が思っていたものと全然違うとか企業風土がまったく合わないといったことで早期離職してしまう確率はかなり抑制され定着率の向上につながることが期待できるとことです。

 

  採用コストの削減

他の採用手法と比べてもリファラル採用にかかるコストは抑えられているといえます。例えば、人材紹介会社を通して人材を確保しようとすると、仮にいい人が見つかったとして多くの人材紹介会社の場合ですと、仮に採用を決定した人の年収を700万円とした場合、紹介手数料として約245万円(700万円×料率35%程度)が発生してくることになります。
これに対してリファラル採用の場合であれば、紹介者に対する報酬・紹介料(インセンティブ)と採用活動のための交際費くらいで足り、コスト差はかなり大きいといえそうです。

 

リファラル採用のデメリット

  社内の協力を引き出すことが難しい

従業員の協力がなければ始まらない採用手法である以上、大前提として従業員の理解と協力は不可欠なものとなります。
ところが、従業員は、自らの親しい友人・知人を紹介する以上、その人の人生を狂わすような話をすることはできずなかなか協力的になりにくいという点も否めないところです。
いかに、安心して紹介していただける雰囲気やきちんとした制度設計ができるかがポイントになってくるように思われます。

 

リファラル採用と縁故採用

時折尋ねられることがある問い合わせに「リファラル採用と縁故採用は同じですか?」といったものがあります。
答えとしては、「いいえ、違うものです」ということです。

とはいえ、「紹介する」という部分においては同じです。
では、何が違うのでしょう。

「縁故採用」とは、家族や親族などの血縁者を採用・入社させるもので、その人の能力やスキル、極端にいうとその人自身への評価はあまり関係なく、紹介者が会社に与える影響力や関係性に主眼が置かれており、その人自身の能力評価や人物評価は二の次といったものになりがちです。

これに対して、リファラル採用では、自社が必要としている能力やスキルを持っているか、自社の組織文化にマッチするような人物かといった点、つまり本人自身のスペックを重視して採用するという点で、大きく縁故採用とは違うものというわけです。

 

リファラル採用の法的留意点

リファラル採用をこれから導入しようとする企業法務担当者であれば気になるところとして、本当に法的な問題はないのかおさえておきたいと考えるのが通常ですし、本来の法務のリスク検知能力が働いているということだと思います。

結論

リファラル採用は、下記の手当てを施した後であれば適法に導入は可能ということになります。

では、何を準備しておけばよいのか、気を付けておくことは何かを整理しておきます。

 

就業規則の改定または賃金規程の改定もしくは補足規定の作成

リファラル採用では、人材を紹介してくれた社員に対して賃金・給料として支払うための社内ルールの整備が必要です。つまり、就業規則または就業規則に付随する賃金または給与に関する規程などで明らかにしておく必要があります。

普通に考えると、採用が成立したことに対する一種の成功報酬的な意味合いから報酬・紹介料(インセンティブ)として支払えばいいのではないかと考えてしまうところです。

ですが、なぜそうせず、わざわざ賃金・給料として支払う方法をとるのか押さえておきたいと思います。

 

なぜ賃金・給料として支払うのか?

リファラル採用において、被紹介者が無事に採用までいたったとして、仮に報酬・紹介料(インセンティブ)として支払う方法を採用した場合、紹介した社員は職業紹介事業を許可なく行った者として処罰される可能性があることを考慮しておく必要があります。
そうなった場合、会社も無許可で職業紹介事業を行った者(紹介者である従業員)に対価を支払ったとして違法性を問われるおそれが残ることになります。

企業法務に従事する者としては、無用なリスクを残すことは避けるよう社内行政をガイドすべきである立場にあるわけですから、この点はきちんと人事部門へ説明し理解いただいておくべき大事なポイントといえそうです。

<根拠条文:職業安定法第40条>
労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事する者または募集受託者に対し、報酬を与えてはならない。
ただし、賃金・給料またはこれらに準じるものを支払う場合、または報酬の額について事前に厚生労働大臣の許可を得ている場合を除く。

 

賃金・給料として支払う金額の設定についても注意が必要

リファラル採用において気を付けるポイントを上述しましたが、もう一点気を付けていただいた方がよいことがあります。
リファラル採用により採用できた場合、賃金・給料として支払う方法を採用する方が安全であろうことを述べたところですが、くれぐれも支払う金額が高額になり過ぎぬように注意いただいた方がよいといわれています。
あまりに高額ですと職業紹介事業を行っている者と同視され、違法性を問われるおそれが残ります。
相場観としては「3万~10万」程度が適当なようです。
もう少し引き上げたとして「~30万」くらいまでが違法性の可能性を問われるリスクが残らないラインなのではではないかと思われます。

 

まとめ

リファラル採用は有効な人材獲得戦略の一つといえます。

留意点をクリアすることで法的に問題なく実施できる人材獲得戦略の一つといえます。

   違法性を疑われるリスクを排除するために、次の2点をおさえたルール設計をすることが安全といえます。

  •  リファラル採用成立時の対価は賃金・給料として支払う
  •  上記についての就業規則の改定または賃金規程の追加・改定が必要

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