「契約書」の書き方・作り方
契約書を書こう、作ろうとしても、少々ハードルが高くなかなか前に進めないというのが普通なのではないでしょうか。そこで、契約書の書き方・作り方について述べていきたいと思うのですが、あなた自身が個人という立場で一から契約書を書いたり作ったりすることは滅多にないものと思われますので、企業の中で法務や総務の役割の一つとしてまたは個人事業の方が契約書を書いたり、作ったりする場面を想定して契約書の書き方、作り方をお話していきたいと思います。
「契約書」は形にこだわらなくてもよい
あなたは、あなたが契約書を一から作成することになった場合に思うことにどんなことがあるのでしょう?
- 契約書って決まったしきたりやルール、様式(フォーム)がありそうでなんだかとっつきにくそうだし、難しそう。
- 契約書特有の表現を使わないといけないみたいでよく分からない。
- きっと、専門家にしか書けないし理解できないに違いない。
と「難しそう」、「とっつきにくい」、「よく分からない」といったことになりそうです。
しかし、本当は契約書は誰が読んでも理解できる、正しく内容や意味を読み取れるものでなければなりませんから、普通に学校で学んだ国語力があって、基本的ないくつかのルールをポイントをおさえておけば、ある程度のものは作成できるようになるのです。
また、契約書としての効力はあなたが心配されているようなルールに沿ったものでなくても問題はないのです。なぜなら、「契約自由の原則」という民法の基本原則が存在するからです。
参考)
契約自由の原則とは、簡単にいうと契約は当事者間の自由な意思に任されるものであるから、誰とどんな内容の契約をどういう方法で契約するのかは自由であるという民法の基本原則です。
少々、簡素な説明としてしまい、詳しい方からはお叱りを受けるかもしれませんので、「有斐閣 法律用語辞典」ではどのような解説がされているのか見ておきましょう。
私人の契約による法律関係については私人自らの自由な意思に任されるべきであって、国家は一般的にこれに干渉すべきではない、とする近代司法の原則。
(有斐閣 法律用語辞典 第2版)
ということですから、概ね合っていそうです。
契約自由の原則の内容として、以下の4つとされています。
〇 契約締結の自由
契約を締結するかどうかを契約当事者が自分自身の判断で決定することができること。
〇 相手方選択の自由
誰を契約の相手として選ぶのかは当事者の自由であること。
〇 契約内容の自由
契約の内容に何を採用し反映するのかは自由であること。
〇 方法の自由
契約は当事者間の合意で成立するものであって、書面化するのか口頭のみで足りるとするのか
といった契約方法(方式)についても自由であるということ。
例外)
レ 労働契約(労働基準法)
第十五条(労働条件の明示) 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
(労働基準法施行規則第5条第4項)法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。(※)
(※)労働者が書面に代わり、①FAX利用、②電子メールによることを希望したときはその方法でも認められます。
レ 特定商取引法で指定される取引類型にかかわる契約書
消費者保護を目的とした特定商取引法の具体的規制内容の一つとして「重要事項に関する書面交付義務」
があり、これに基づき下記の7つの取引類型に対し、契約内容を書面化して消費者に交付する義務があります。
・訪問販売
・通信販売
・電話勧誘販売
・連鎖販売取引
・特定継続的役務提供(特定権利販売)
・業務提供誘引販売取引
・訪問購入(押し買い規制)
レ 契約書の作成義務のあるもの(例:建設工事請負契約、保証契約、など)(民法、建設業法)
レ 公序良俗に反する契約(例:愛人契約〔大判昭9.10.23〕、有毒性物質混入食品の販売契約〔最判昭39.1.23〕、など)
そういうわけですから、極端な話、自由に約束事を作文していただいた文書にお互いに合意の意思表示の証(あかし)として記名押印(署名捺印)したものを契約書とすることも可能なわけです。
契約書を作成するうえで押さえるべきポイントがあることを知ろう
そうはいっても、押さえておかなければ本来の契約書を作成する目的を果たせず、意味ないものとなりかねない、ということは認識しておいた方がいいでしょう。
「契約とは」の中で触れましたように、契約書とは何のために作成するのかという最大の目的は、万一トラブルが起きた時の解決のガイドであり、重要な証拠書面であるとお伝えしました。
証拠として、利活用できるようにするためには契約書の中に一定の規定(条項)を配置しておいた方が有益な書面となることは間違いないでしょう。
例えば、ケーキ屋さんにバースデーケーキをつくってもらう契約書をつくったとします。
ここで契約自由の原則にたち、次のような契約書(注文書)を作成し、事前にお代をお支払いしたとしましょう。
ケーキの販売契約
1.ケーキ(直径24cmのホールケーキ)を注文します。
2.2022年1月8日に下記住所へ配送をお願いします。
配送住所:埼玉県さいたま市〇区〇〇1-2-3
3.金額は8,800円(消費税込み)とし、注文時点で支払います。 ※配送料は近距離のため無料
4.注文日は、2021年12月15日
ところが、2022年1月7日のお昼を過ぎてもケーキが届かず電話をすることになりました。
と、このようなやりとりが繰り返されることになり、言った言わないの水掛け論となり、結果的にはおそらくパーティー終了間際か終了後に本来の目的を失ったバースデーケーキを受け取ることになるように思われます。
では、ここであなたが、次のように契約書(注文書)を作成できていればどうだったのでしょう。
ケーキの販売契約
1.バースデー・ケーキ(直径24cmのホールケーキ)を注文します。
2.2022年1月8日の12時(バースデー・パーティー開催時刻の午後1時の1時間前)迄には、下記住所へ配送をお願いします。
配送住所:埼玉県さいたま市〇区〇〇1-2-3
3.金額は8,800円(消費税込み) ※配送料は近距離のため無料
4.注文日は、2021年12月15日
5.バースデー・パーティーの開催日時である2022年1月8日 午後1時迄に注文したバースデー・ケーキが届かない場合、支払済みの代金全額(消費税込み)について、現金で返金いただきます。
特に大事なポイントである
◎配送日時を厳守いただかないと意味のないものとなってしまうものであること、
◎支払い済みの代金を返金いただくこと、
といった点を契約書(注文書)に記載し明らかにしておくことができていれば、先ほどのように言った言わないの争いが生じることはなく、契約書(注文書)に従い、粛々と処理されることになり、一定のリスクを防ぐことはできたのだと思います。
どうでしょう。これで、契約書の中に特に大事なポイントについての規定(条項)を配置しておいた方が有益な書面となるということはご理解いただけたでしょうか。
とにかく、あらかじめ起こりそうな問題やトラブルを予測し、それについての解決方法や対応方法について契約書(注文書)に書いておくことが大事だということですね。
契約ひな形の利活用
そうはいっても、日ごろから契約書を作っていない方にとっては、契約書を一から書いていくことはなかなか大変なものかもしれません。
そこで、お薦めとなるのが契約書のひな型を利活用するというものです。
ベースとなる素材があった方が、必要な項目や不要な項目といったものを追記したり削除したりしながらより取引実態にあった契約書へカスタマイズしていけますし、契約書作成に不慣れな方であっても、ひな形であれば、概ね必要な規定は配置されているため、まっさらの白紙から一文字一文字書き込んでいくよりもよいものが作れることでしょう。
では、契約ひな形はどこから入手するのかとなってきますが、代表的なものとして以下のようになろうかと思います。
〇法律専門家に作成を依頼(法律事務所など)
〇書籍
〇インターネット
〇AI契約審査サービス
〇既存の締結済みの契約書をひな形化
もちろん、コスト的に許されるのであれば、法律専門職の方に取引実態にあわせてしっかりとひな形を作ってもらうことをお勧めします。その際に、個々の取引で微調整する場合の注意点や修正例などアドバイスをいただいておくと、後の実務対応の中でスムーズに対応ができるようになるのではないかと思います。
契約ひな形の種類
契約ひな形といっても、いろいろな取引類型が存在しますので、一種類だけで事足りるというものではありません。きちんと取引内容や契約を締結する目的を認識し、最適なひな形を選択しなければなりません。では、契約類型にはどのようなものがあるのかみておきましょう。
- 秘密保持契約書(通称:NDA ※non disclosure agreement の略称)
- 売買契約書
- 業務委託契約書
- 保守契約書
- システム開発契約書
- サービス利用契約書
- ソフトウェアライセンス契約書
- 雇用契約書
- 労働者派遣契約書
- 代理店契約書
など
「契約書」を作成するえでの大事なポイント
何のために取り交わす(締結する)契約書なのかを考える(ひな形選定に必要)
あなた(あなたの所属する企業)の立場を理解する(立場によって権利義務は変化する)
予測されるリスク(今後発生するかもしれないトラブル要素)を考える(予防法務の視点を忘れずに)
契約の有効性を確保する(無効な契約書とならぬために)
分かりやすい表現、誰が読んでも同じ認識となるような表現となるよう配慮する(解釈の仕方によって結果が異なると契約に基づく紛争解決が進まないことに)
まとめ
最後に、契約書の書き方・作り方として、今一度おさえておきたい5つのポイントを整理しておきます。
1.契約することの意味や目的を整理し契約書の記載内容と向き合う
2.同じ条項であっても立場の違いで表現のレベルを見極める
3.リスクの予知力を磨き契約書にあらかじめリスク回避策を落とし込む
4.契約が有効に成立しているという大前提を死守する
5.読み手次第でとらえ方に違いが生じないような文章を書こう。
ぜひ、万が一の事態が起こったときに、契約書であなたやあなたの所属する企業を守ることができるよう契約書の作成力を磨いていただければと思います。