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基本契約書とは?個別契約書とは?

2022年1月15日

基本契約書とは?個別契約書とは?

 

企業法務で日々みなさんの相談に応えている中で、ふと、気づいたことがあるのです。

相談者
すみません。伍桃さん、〇〇〇株式会社との基本契約はありますか?
基本契約っていわれてもねえ。どういう取引についての基本契約なの?
法務担当
相談者
ええっっっ!?どういう取引って言われてもなぜそんなことを聞くのか意味が分からないのですけど、、、
相談者
とにかく、基本契約があれば一々契約締結の手間が増えなくてありがたいんですけどねぇ、、、
いやいや、基本契約が一つあれば何でもOKという訳でもないんだけどなぁ~ トホホ、、、、
法務担当

といったやりとりって、以外にあるのですよね、これが。

そこで、基本契約とは何か、個別契約とは何か、についてこれから紐解いていきましょう。

基本契約ですべてがまーるく治まるものではないのです。

上のやりとりをみていただくとお分かりのように、以外に多くの方は基本契約があれば万事解決と大きな勘違いをされているように感じます。もちろん、企業法務に携わる方にそういう人はいらっしゃいません。
(入門者は別ですけどね。)

つまり、基本契約を締結していれば万事うまくいく、安心だ、というわけではない、ということをご理解いただく必要があると思っています。

では、なぜ基本契約を取り交わしていても安全安心、万事うまくいくとは言い切れないのか触れていきます。

基本契約にもいろいろある

えっ!どういうこと?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんよね。
実は、基本契約という単語が含まれる契約であっても、明示しているか否かにかかわらず、何の基本契約というものなのです。

具体的に事例を挙げると、次のようなものです。

・売買取引基本契約
・製造委託基本契約
・業務委託基本契約
・請負基本契約
・準委任基本契約
・システム開発基本契約

などなどです。

でも、なぜわざわざいくつもタイトルを分けて基本契約の種類を増やすようなことをするの?
面倒だし、大変ではないの?
という感想を持たれると思うのですが、これにはちゃんとした理由があるわけです。

なぜ基本契約があるのにわざわざ別の基本契約を締結する必要があるのか

これは、それぞれの取引の内容にマッチしたルールといいますか法制度があるからといえようかと思います。

  • 「売買取引基本契約」であれば、民法の典型契約の一つとして定められている「売買」に関する諸規定に基づき契約内容が構成されていくことになります。
  • 「請負基本契約」であれば、こちらも民法の典型契約の一つとして定められている「請負」に関する諸規定に基づき契約内容が構成されていくことになります。
  • 「準委任基本契約」であれば、上記二つと同様に、民法の典型契約の一つとして定められている 「委任」に関する諸規定に基づき契約内容が構成されていくことになります。
  • 「製造委託基本契約」であれば、取引の性格上、指定の物(製品)を作りいつまでに納品してもらうということに主眼が置かれた取引であることから、前述の請負という性格の契約になろうと思われますので、「請負基本契約」に準じた契約内容で構成されていくことになりそうです。
  • 「業務委託基本契約」については、取引の内容が①「請負」の性格だけをもつもの、②「(準)委任」の性格だけをもつもの、③その両方が混在するものとあるということから、③については少々複雑(書き分けが面倒といった方がいいのかもしれません。)なものになる印象です。①と②については、「請負基本契約」または「準委任契約と同じようにそれぞが「請負」か「(準)委任」のいずれか該当する方の諸規定に基づき契約内容を構成していけばいいわけです。

このように、取引と一言でいっても多種多少あり、そこに当てはめる法律条文にも違いがでてくるわけです。

一番わかりやすいものとして、一例を挙げますと

「請負」であれば、双方で合意した期日までに引き受けた仕事を完成させる責任、仕事を完了させる(仕上げる)責任を負いますが、「(準)委任」であればそれらの責任を負うものではなく、約束した期間、プロとして引き受けた仕事を手抜きなく遂行しさえすれば、仕事が完了しなくても、作成していたものが完成しなくても責任を問われるものではないという違いがでてくるわけです。

こういう理由から、「基本契約あるの?」では不十分で、あなたがこれから行おうとしている取引内容を確認し、その取引内容に合致した基本契約があるのかを調べ確認いただく必要があるというわけです。

なお、取引内容の性格の違いから、いろいろな基本契約があることを述べてきましたが、当然、共通する諸規定も多くあらかじめあなたの会社の考え方に沿った標準的な規定を用意しておくと考え方や契約交渉時の対応としてブレずに交渉ができてお勧めです。

次に、基本契約というタイトルの契約に対して、個別契約とタイトルのついた契約があります。
この違いについてきちんと理解しておく必要もあると思いますので、ご説明しておきたいと思います。

 

基本契約と個別契約の関係を学ぼう

基本契約と個別契約って、どうしてわざわざ二つに分けて作らないといけないの?手間が増えるだけで大変じゃないの?
と素朴な質問をいただくこともありますので、この点についての考え方を整理しておきたいと思います。

イメージとしては、基本契約が「親」、個別契約が「子」という感じです。
基本契約に個別契約がぶら下がるといったイメージをもっていただくといいかもしれません。
つまり、基本契約と個別契約が対(つい)をなすように組み立てる(作成する)ことが大事になるのです。
それぞれの役割としては、基本契約にはその基本契約に係(かか)わる取引全般についての基本ルールを定め、個別契約で個々の取引条件を定める、といったものになります。
そういうわけですから、個別契約には基本契約との紐づけが大事といえます。
では、具体的、基本契約と個別契約にはどのようなことを定め、作成しているのかみていきましょう。

基本契約には何を定めるのか

基本契約には何を定め記載していくのかをみていきたいと思います。
先に少し触れましたが、基本契約とは、基本契約の対象となる同種の取引すべてに共通に適用する基本的な約束事をあらかじめ定め、これに双方合意しておくことで、個々に発生する同種の取引が発生するたびにいちいち交渉し取り決め内容を定めていく手間暇をおさえ、かつ、あらかじめ取引条件の理解・把握が予測しやすくなり容易になるであろうということなどを目的として取り交わしておく契約といえます。

では、具体的にどのような条項を記載しておくのかご紹介しておきます。

取引内容に左右されない標準的な条項として、次のようなものが挙げられます。

・秘密保持(守秘義務)に関する条項
・危険負担 に関する条項
・引渡し、検査、受領 に関する条項
・不可抗力 に関する条項
・相殺予約 に関する条項
・契約解除条項 に関する条項
・期限の利益の喪失 に関する条項
・損害賠償責任 に関する条項
・権利義務譲渡禁止 に関する条項
・反社会的勢力の排除 に関する条項
・有効期間 に関する条項
・残存条項 に関する条項
・管轄裁判所 に関する条項
・準拠法 に関する条項
など

次に、取引の法的性格によって記載されるもの、記載されないものがあり、その一例をご紹介しておきます。

・所有権移転 に関する条項
・契約不適合責任 に関する条項
・納期遅延時の措置 に関する条項
・知的財産権の取扱い(権利帰属について) に関する条項
・品質保証責任 に関する条項
・製造物責任 に関する条項
・納入 に関する条項
・再委託 に関する条項
・知的財産権侵害問題 に関する条項
など

それぞれの条項内容についての解説や具体的な条文例は、別の機会に整理しご紹介していきます。

個別契約には何を定めるのか

基本契約に対して個別契約では何を定め記載していくとよいのかをご紹介していきます。

個別契約に記載することになる内容は、先にご紹介したとおり、個々の取引固有の取引条件を列挙していく形になるといえます。

具体的にどのような条項を記載しておくのかご紹介しておきます。

・具体的取引内容 に関する条項
・個別の取引の取引期間、実施期間、納入日 に関する条項
・納入物 に関する条項
・対価、代金 に関する条項
・支払い に関する条項
など

特に忘れずに個別契約に盛り込んでいただいた方がよいと考えるものとして、基本契約との紐づけができるように基本契約の情報を記載しておくことです。

先にも述べましたが、基本契約と個別契約が対(つい)になってこそ最も効果のある証拠書面となるものですからこの個別契約はどの基本契約に基づき合意されたものですと明らかにしておきたいということです。

具体的には、「この個別契約は、甲乙間で〇年〇月〇日付締結の”〇〇基本契約書”に基づき以下のとおり合意する。」といった感じで基本契約が特定でき、かつ、紐づいていることが明らかになるようにしておくことが重要といえます。

基本契約を締結しないという選択肢もある

ここまで、基本契約と個別契約の話をしてきたわけですが、必ずしもそうすべきとは限らないケースもあります。
そういったケースをご紹介します。

継続的な取引が予定されていないケース

そもそも基本契約を締結し、個々の取引についてはその基本契約と紐づけて個別契約を取り交わす、という方法を採用するのは、基本契約の対象とする取引が定期的か不定期かを問わず、継続的にあるかどうかで判断していくことになってきます。

先に述べたように、基本契約を取り交わす目的が、基本契約の対象となる同種の取引すべてに共通に適用する基本的な約束事をあらかじめ定め、個々に発生する同種の取引が円滑に行えるようにしておくためということであることから、単発で取引が終わるような取引であれば、その必要がなくなるというわけです。

ただし、あなたの会社や取引先の取引ルールとして、基本契約の締結と口座開設が必須ということであれば、単発の取引であっても基本契約を取り交わさざるを得ないということになりそうです。

継続的な取引となるのか単発取引として基本契約を不要とするかの判断は、現場(営業、技術、調達など)
サイドで行っていただくものであろうと考えます。

基本契約の内容合意が難航し折り合わないケース

基本契約の合意に向けて、契約内容を交渉するものの、諸条件の中に合意に至ることができず、平行線をたどるような場面は企業法務の世界ではよくあることです。

そのような場合は、基本契約の合意・締結はあきらめ、個別の取引のみを契約対象とした単発の契約として、基本契約で記載する条項と個別契約で記載する条項を一つの契約内容として整理し契約締結を目指すという方法を採用するケースがこちらです。

基本契約の締結をあきらめ単発の契約締結へ切り替えるかどうかの判断は、現場(営業、技術、調達など)
サイドの意見も確認しながらも法務サイドが主導する形で判断していくことになろうと考えています。

 

まとめ

〇 基本契約と一言でいっても、取引内容に合致した複数の基本契約がある。

〇 基本契約と個別契約は対(つい)となって一つの契約と考える。

〇 上記に絡み、個別契約は基本契約と紐づかせること。

〇 基本契約の締結は、契約の対象となる取引が継続的なものかどうかで判断する。

 

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