契約書でいう「書面」とは
契約書を作成したり、審査をしたりする場面で、よく「書面」という用語が使われているのですが、あらたまって「書面」とは何か、どこまでのものを「書面」というのかじっくりと考えてみると以外に悩んでしまうところがあります。
素直に「書面」の意味を調べてみると
「書面とは」
①文書・手紙などに書かれてあること。文面。
②手紙。文書。書類。「書面で知らせる。」
(コトバンク デジタル大辞泉より)
①文書、手紙などに書かれた趣意。文面。
②文書。書付け。手紙。
(コトバンク 精選版 日本国語大辞典より)
契約書の中での「書面の使われ方」としてよくあるケースとして次のようなものが挙げられます。
(事例)
- 「〇〇については、別途書面で通知する。」
- 「本契約の内容を変更しようとする場合、相手方の書面による承諾を得ることなく、・・・」
- 「異議を申し出る場合は、相手方に対し書面による異義の申し入れを行うものとする。」
- 「甲および乙は、前各項と異なる定めを設ける必要があるときは、双方協議し合意した内容について別途書面を取り交わすものとする。」
- 「乙は、甲の書面による承諾を得ることなく、対象業務の履行を第三者に再委託してはならない。」
といったように、かなりの頻度で「書面」という指定が入り込みます。
これらの使われ方からすると、上述の意味としては、「文書」・「書類」ととらえることで間違いないと考えられるところです。ここで私が考え込んでしまうポイントとして、これって「紙なの?」、「紙文書なの?」、つまり、電子ファイルは含まれないのかということでグルグルしてしまうことがあったわけです。
ここで「有斐閣 法律用語辞典 第2版」で「書面」を調べてみると
文書のおもて、すなわち文面。文書上表示されている内容を指す。口頭による表示に対する。
(有斐閣 法律予後辞典 第2版)
といっているわけです。
ポイントは、最後の一文です。「口頭による表示に対する。」ということは、文書で示したものであれば、紙(面)でも電子メールに記載の文書でも、さらには電子ファイル(Word,Excel,PowerPoint,PDFなど)に記録した文書でもよいと読み取れるのではないかとそうに思うのです。
さらに他の辞書をみてみますと
文書とは、紙片等の媒体に文字その他の符号をもって何らかの思想が表示されたものをいいます。
(有斐閣 法律学小辞典 第5版)
ということですから、上述の考え方で合っているように思えます。
ところが、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」の第2条第3号では、
書面とは、書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識すること
ができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。
ということから、「紙かその他の有体物」となってしまい、つまりは有体物ではない電子ファイルや電子メールは文書の対象からは外れてしまうという見解に落ち着くように思われます。
ちなみに、下請法(下請代金支払遅延等防止法)でも書面交付義務が親事業者に課されているのですが、電子メールに注文書等の電子ファイルを添付して発注する場合は、書面の交付にはあたらず、電磁的記録による方法でやりとりすることをあらかじめ下請事業者側から承諾を得ておく必要があるとして、書面は紙とはっきりしていることからも同じ結論に至るようです。
※有体物とは、「空間の一部を占める有形的存在をいう。」(有斐閣 法律用語辞典 第2版より)
「電子メール」は、民事訴訟法上「準文書」として扱います
上述考察してきた結論としては、「書面」は紙などの有形物上に記録された文書ということになるようですが、「電子メール」や電子ファイルといったものはどういう扱いになるのか押さえておきたいと思います。
電子メールの扱いは
電子メールや電子ファイルが有形物でないことから、文書にはあたらないということはご認識いただいたところですが争いが生じたときの証拠として採用され得るのかということは企業法務に携わる者として気になるところですし、おさえておきたいところです。
そこで、民事訴訟法を確認しておきますと次のような条文が配置されています。
民事訴訟法第231条(文書に準ずる物件への準用)
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。
こちらの法文から電子メールは「文書と同等扱う準文書」ということができ、「証拠力」はあるということができるようです。
まとめ
これまで分析してきた結論をあらためて整理してみると次のようになるようです。
「書面」とは、紙などの有形物の上に記録された文書をいうものであって、電子メールや電子ファイルなどの無形物は「書面」の対象からはずれる。
「電子メール」は、「準文書」として文書に準ずるものであり、民事訴訟上の証拠力を有するものといえる。
企業法務に携わる者として知っておいて損はない大事な知識といえそうです。