契約用語

「善良な管理者の注意義務」を学ぶ

2020年6月15日

「善良な管理者の注意義務」を学ぶ

契約書を審査しているとたまに見かけるこの表現、「善良な管理者の注意義務」、、、法律の勉強をしたことがある方であれば、完璧ではないにしろ「あぁ、ああいうことだな。」と感覚的にはご理解いただける用語なのではないでしょうか。契約審査の中では主に「準委任契約」や準委任による業務委託契約の中で用いられる用語です。
ただ、法律を学んだことのない方にとっては、どうにもしっくりとこない表現で単なる注意義務と何が違うのかよく分からないし、わざわざそんな表現を使う意味があるのかすらご存知でない方が多いというのが普通であるように感じています。(私の周囲の方々だけが特殊なのかもしれませんけれど。)
そこで、私自身のおさらいも含めて、紐解いていきたいと思います。

「善良な管理者の注意義務」とはどういう意味

まず、「注意義務」とはどういう意味かご存知かと思います。
念のために確認してみますと次のような結果が確認されます。
「注意義務とは、法律上要求される一定の注意を払う義務をいう。」
(出典 ウィキペディア)
「注意義務とはある行為をするにあたって要求される一定の注意を払うべき法的義務。」
(出典 コトバンク)
「ある行為をするにあたって要求される一定の注意を払うべき法的義務。」
(出典 Weblio)
「ある行為をするにあたって要求される一定の注意を払うべき法的義務。」
(出典 goo辞書)
以上のことから、
「注意義務とは、ある行為をするにあたって要求される一定の注意を払うべき法的義務である。」と言い切ることができそうです。

では、「善良な管理者」とはなんだろうということになってくるところだと思います。
このあたりのことを次に分析していきましょう。

「善良な管理者」とは

「善良な管理者」という用語を調べてみるのですが、これそのもので合致する答えはみあたりません。インターネット上で検索してみても、ピシャリと合致する結果は1件のみでそれ以外のすべてが「善管注意義務とは」というものばかりが検索結果に並ぶ結果となりました。唯一、「善良な管理者」という用語で解説された内容は、「おおむね、悪意に基づかず職業に従事している者といった意味合いの表現。」と解説されています。
悪意の対義語として、善意とか好意という用語があり、善意という用語を調べてみると次のように並びます。

「善意とは、①よい心。善良な心。立派な考え。②他人のためを思う心。親切な心。③法律で、ある事実を知らないでそれを行うこと。」
(出典 コトバンク 精選版 日本国語大辞典)
「善意とは、①よい心。②他人のためを思う親切心。好意。③好意的に相手の言動などをとらえること。④法律で、ある事情を知らないですること。」
(出典 コトバンク デジタル大辞泉)

私は、精選版 日本国語大辞典の①の中に”善良な心。”という意味を上述の「善良な管理者」の解説にあてはめてみると「おおむね、善良な心に基づき職業に従事している者」といった意味ととらえることで大きくははずれていないと思います。

「善良」についてもどういう意味なのか調べてみますと
「善良とは、真面目で素直なこと。」(出典 辞典オンライン国語辞典)
「善良とは、心がけ、言動の良い者。」(出典 ピクシブ百科事典)
「善良とは、性質のよいこと。性質がおだやかですなおなこと。また、そのさま。」
(出典 goo辞書)
「善良とは、性質のよいこと。性質がおだやかですなおなこと。また、そのさま。」
(出典 weblio辞書)

と解説されており、先ほど述べた「善良な管理者」の意味にさらにこちらの意味を重ね合わせて解釈してみると
「真面目で素直に職業(業務)に従事している者」ということができるといえるようです。

「注意義務」には2つのレベル(程度)がある

「注意義務」についてはすでに上述したとおりですが、注意義務のレベルが2段階あるということをおさえておきましょう。
一つは、「他人のための善良な管理者としての注意義務」、
もう一つが「自己のためにする注意義務」となります。
当然ながら他人のために注意義務をつくすのと自分自身のために注意義務を払うことを天秤にかけますと他人のために注意を払う方が一段レベルをあげて対応せねばならないことはご理解いただけるかと思います。

善管注意義務 > 自己のためにする注意義務

 

専門辞書の解説では

善良なる管理者の注意とは

民事上の過失責任の前提となる注意義務の程度を示す概念で、その人の職業や社会的地位等から考えて普通に要求される程度の注意。善管注意義務、善管注意ともいう。

(有斐閣 法律用語辞典 第2版)

 

業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。

(出典 コトバンク デジタル大辞泉)

 

これらの解説内容から、企業法務に携わる法務担当者としては、自らの企業が仕事を引き受ける場合は、通常、対価を得て仕事を受任することが一般的であることから、依頼する側からすれば、プロとして当然に有していると期待される注意義務を負う、つまり善管注意義務を負うものと認識しておくべきだと考えるところです。

善管注意義務をうたった法律条文

民法 第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務))
債権の目的が特定物の引き渡しであるときは債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因
及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

民法 第644条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

 

まとめ

冒頭に用語を細かく分解して紐解いてみたりもしたわけですが、ここはシンプルに注意義務の程度(レベル)を表す法律用語なのだと割り切って意味を理解した方が、結果的にはスッキリしそうです。

 

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